ぼくにっき


第13週 「勧告」

11月20日 月ようび あめ

目をあけると、ぼくはびょういんのベッドにいました。
おなかのあたりがシクシクいたみます。そのくるしさで目がさめました。
これまで何回かにゅういんしたけど、こんなくるしいのははじめてです。
いくらおなかをさすってもいたみがとれません。
つらいです。


11月21日 火ようび はれ

ひとりでベッドでねてるとさびしいです。
みんな「だいじょうぶよ」とか「がんばってね」とかあたりまえのことしか言ってくれません。
この前にゅういんしてた時はなんだか楽しかったのに。
なんでだろう。ああそうだ。となりにおじさんがいたから。
今はだれもいないです。


11月22日 水ようび くもり

ひまなのはしかたないんですが、おなかがいたいのはたえられません。
今回のはちょっとやばいっぽい。いつもとちがうびょうきなの?
だれにきいてもマトモに答えてくれませんでした。「だいじょうぶだから」はもうききあきました。
なんでかくしたがるんだろう。もしかして、もしかして・・・
ぼくしんじゃうのかな。


11月23日 木ようび くもり

今日はとてもさむかったです。
だんぼうをきかせてもらってたのにからだはずっとひえたままでした。
さむいのにあせがでてきました。ちょっとあせもかいてます。
おなかもいたいままなのに。からだがどんどんよわってくのがわかります。
すぐねむたくなってしまいます。このまましんじゃったらどうしよう・・・
ひとりでこっそり泣いてしまいました。


11月24日 金ようび くもり

こんなにさびしいおもいをするのははじめてです。
とてもふあんで、こころぼそくて・・・かなしいです。
だれかそばにいてほしい。心をつうじあえる人がほしいです。
ああ。こんなとき、あの人がいてくれたなら。
村上さん!


11月25日 土ようび はれ

おいしゃさんに言われました。こんどしゅじつするんだって。
今まではそんなことなかったのに。やっぱりおかしいよ!
おなかのいたみはどんどんはげしくなっていきます。
なんのびょうきなの?ちゃんとなおるびょうきなの?
おいしゃさんは「ちょっぴりめずらしいびょうきなだけだよ」と。
そんな。


11月26日 日ようび はれ

おいしゃさんとかんごふさんのはなしをぬすみぎきしてしまいました。
「おやごさんにはなるべくはやくしゅづつようにすすめておいたから」
なるべくはやくって・・・。まさかておくれじゃないよね?まだだいじょうぶだよね?
ふとんをかぶってひとりさびしくふるえてました。なみだがポロポロこぼれおちまていきます。
その時でした。ふとんごしに誰かにやさしくなでられました。
「だいじょうぶよなおや君。私がついてるから」
ききおぼえのある声です。ぼくはおもわずふとんからとびでました。
そこにはにっこりとわらってあの人が。
村上さん。もどってきたんだね!


第14週 「無情」

11月27日 月ようび くもり

村上さんとたくさんおしゃべりしました。
おじさんが先生やってることとかアッキーが学校にきたこととか。
おどろいたりいっしょにわらってくれたりしました。
村上さんもりょこうに行ったおはなしとかしてくれました。
おべんきょうのためにアメリカに行ってたそうです。
やっぱりはなせるひとがいるとたのしいな。
ちょっぴりげんきになりました。


11月28日 火ようび はれ

学校のおはなしをしてるとみんなのことを思い出してしまいます。
あつし君、げんきかな。おじさんもちゃんと先生やってるのかな。
ぼくのことわすれていないかな・・・
おなかのいたみはどんどんひどくなるばかりです。
学校にはまだもどれそうにありません。
はやくもどりたいな。


11月29日 水ようび くもり

村上さんもやさしくしてくれます。でもなんかちがうんです。
村上さんにはふつうにやさしくされるよりもっとたのしいことをしてほしいんです。
おじさんがいたときみたいに。
けどもうそんなことをしてくれるけはいすらありません。
ふつうのかんごふさんです。みんなとかわりません。
さびしいです。


11月30日 木ようび はれ

がっこうにもどりたいな。ボソっともらしてみました。
村上さんはえがおで「すぐになおるから。もうちょっとまってね」とかえしてくれました。
「みんなにあるだけでもいいから」と言うと村上さんは少しおこった顔になりました。
「なおや君。おたのしみはあとにとっておかなきゃダメよ」
ぼくはしぶしぶうなずきました。でもがまんするのはつらいです。
ちょっとだけでもいいのに。


12月1日 金ようび はれ

しゅじゅつはらいしゅうにきまりました。みんなにもおしえてあげたいです。
村上さんに言うと「しつこいのはだめよ」とおこられました。
だけどもししゅじゅつにしっぱいしたら、ぼくはみんながしらないまま・・
とてもふあんになりました。このふあんをわかちあってくれるひとがいません。
ねぇ村上さん。ぼくこわいよ。とってもこわくなってきたよ。
「大丈夫」としかこたえてくれませんでした。


12月2日 土ようび くもり

ぼくはわがままを言いました。
なみだをポロポロこぼしんがら村上さんに言いました。
みんなにあわせて
村上さんはおこらず、やさしくぼくのあたまをなでながらこたえました。
ごめんね。それだけはできないのよ・・・
村上さんんは泣くのをこらえてました。目になみだがうっすらうかんでます。
ぼくはそれいじょうなにもいえませんでした。
なみだだけがこぼれてました。


12月3日 日ようび くもり

村上さんにきかれました。「本当に『めずらしいびょうき』としかきいてない?」
ぼくはうなずきました。そしたら村上さんはかおをふせてむこうをむきました。
どうしたの?ぼくがきてもうしろをむいたままこたえてくれません。
しばらくそのままでいると、ボソリと「かわいそうに・・」って。
ふりかえって・・・とてもかなしそうな目をして・・・村上さんは行ってしまいました。
ひとりのこったぼくは思いました。
もうダメなんだ。


第15週 「審判」

12月4日 月ようび くもり

こんしゅうのおわりにしゅじゅつがあります。
しっぱいしたらぼくの人生もそのままおわります。
せいこうしてもぶじですむかわかりません。
ぜつぼうです。


12月5日 火ようび はれ

ぼくがこんなにくるしんでるのに。みんなわらうばかりです。
そのこころづかいがかえってぼくをきづつけます。
きをつかわないでください。ダメならダメとはっきり言ってください。
それでもみんなは言います。大丈夫、きっとうまくいくから。
うそつき。


12月6日 水ようび はれ

おなかのいたみはいよいよはげしくなってきました。
さいしょのころはがまんできるていどだったけど、もうげんかいです。
しゅじゅつのまえにしんでしまうかもしれません。
ぎゅっとまくらをだきしめて、ぼくはひとりでなきました。
しにたくないです。


12月7日 木ようび くもり

どんあにあがいてもしぬのはとめられそうにありません。
村上さんに「がんばるのよ。あとでちゃんとたのしいことがあるから。」とはげまされました。
みんなにあいたい。たのしいことはいまひつようです。
おじさんのへんなこうどうもいまではとてもたのしいおもいでなんです。
もうにどとあえないなんて。


12月8日 金ようび はれ

もうダメです。いたみにたえられません。
かみさま。ぼくはわるいこでしょうか。だからこんな目にあうんでしょうか。
そうだ。ばちがあたったんだ。おじさんとあそんでてちゃんとべんきょうしなかったから。
しぬのはじぶんのせいなんだ。
わるいのはぼくなんだ。
ああ・・


12月9日 土ようび ハレ

かみさまごめんなさい。ぼくがわるかったです。はんせいしてます。
だからおねがい。あしたのしゅじゅつをせいこうさせてください。
ぼくをころさないで。


12月10日 日ようび いいてんき

これからしゅじゅつにいってきます。かみさまのさばきをうけてきます。
おそらをみるのもこれでさいごになるかもしれません。
ぼくはこのよにさいごのあいさつをしました。
みんな、さようなら。


第16週 「天使」

12月11日 月ようび はれ・・

しゅじゅつはおわりました。いたみもありません。
でもこのからだのかるさはなんでしょう。ふわふわして、このままとんでいってしまいそうで・・・
ちからがはいらない


12月12日 火ようび くもり

村上さんは顔をあおくして「すぐにみんなよぶから。それまでがまんするのよ」といってました。
なんでそんなにあわててるんですか。ほかのみんなはわらってるのに。
わらってるのは、ぼくをふあんにさせないため・・?村上さんだけがほんとうのことをおしえてくれる。
ぼくはききました。「しゅじゅつはしっぱいしたの?」
「だいじょうぶよ。みんなよぶから。まめっちにもあいたいでしょ?あの人もよんであげるから。」
せいこうとはこたえてくれませんでした。


12月13日 水ようび はれ

まだだれもきません。からだはどんどんかるくなっていきます。
しぬ。
ぼくはさとりました。ぼくはしぬんだ。
このままみんなもまにあわず、ぼくはひとりでしんでいくんだ。
てんしがむかえにくるのかな。おそらのむこうにとべるかな。
ちゃんとてんごくいけるかな・・


12月14日 木ようび はれ

村上さんは言いました。「おわかれのときは、キスでおくりだしてあげる」
ぼくはかおがあかくなりました。村上さんのえがおがとてもきれいで・・
なんだろうこのきもち。むねがくるしくて、せつなくて。
ああ、そうか。そうだったんだ。
ぼくは村上さんのことが好きだったんだ。
きづいたときにはわらいそうになりました。
しぬちょくぜんにきづくなんて。
おそすぎるよ。


12月15日 金ようび かいせい

おむかえがきたようです
あたまのなかがまっしろになっていきます
これからぼくはたびだちます
村上さんと、おせわになったひとたちに
さいごのわかれをつげました
ありがとう・・・


12月16日 土ようび ひどい

まだいしきはありました。だけどあしたまではもたちません。
しぶとくさいごのじかんをおしんでました。
あたまのなかはまっしろでしたが、なんとかまわりのはなしはききとれました。
だれかがぼくのなまえをよんでます。やさしい女の人のこえです。
・・・村上さん。村上さんが最後にはなしかけてくれてる。
「なおや君。そのままでいいから。」
村上さんがちかづいてきました。
「やくそくをまもりにきたから。めをつぶってて。」
やくそく・・。おもいだしました。ぼくがなにかいおうとするまえに、村上さんが先にいいました。
「お別れのキスよ」
ぼくはからだがかたくなりました。しにかけてたしんぞうがドキドキしはじめました。
村上さんのキス。しぬまえにさいこうのプレゼントです。
ぼくはちからのかぎり目をぎゅっとつぶってまってました。
クスクスと「そんなにかたくならなくていいのよ」ときこえてきます。
うん、とぼくは小さく答えました。
しばらくそのままのしせいでかたまってると、かおがちかづいてくるけはいをかんじてました。
いきがかおにかかります。村上さんお顔が目の前にあるんだ。
いよいよしんぞうがドキドキいいはじめました。
あったかいきがかかりました。

つぎのしゅんかん、くちびるにやわらかいかんしょくが。

やわらかい。からだはきんちょうのあまりうごきません。
ありったけのしんけいをくちびるにしゅうちゅうしました。
とってもきもちいい・・
そう思ってると、くちのなかにちょっぴりヌルリとしたものがはいってきました。
まさか。じぶんのかおがまっかになるのがわかりました。村上さんの舌・・・
そんなだいたんな。ぼくがあせってるのもおかまいなしに、村上さんははげしくぼくのしたをすいました。
うわ。どうしよう。これがオトナのキスなんだ・・・!
ぼくはしょうてんすんぜんでした。
なおも村上さんのしたがせめてきます。
そんな。村上さん。そこまでされるとぼくは・・・ああ・・・
せめられるままにみをまかせ、ぼくはそのかいらくにひたりました。
村上さんのいきづかいもあらくなってきます。
ふぅふぅと、あらいはないきがかおにかかってきます。
ちょっぴりいきがくるしくなってきました。
村上さん。そこまでしてくれるのはうれしいけどこれ以上は・・・
したをすうのもじんじょうじゃなくなってきました。
ほんきでいきがやばいです。いきができません。
村上さん、そろそろ・・・
くちはかんぜんいふさがれてます。なにも言えない。
くるしいです。村上さん。もういいです。
じゅうぶんたんのうしました。だからそろそろくちびるはなしてください。
村上さん。村上さん・・・!
がまんしきれず目をあけました。










































ъ( ゚ー^)













おおおおおおおおおおおおおおおおじさんッッッッッッッッッッッ!!!!!??????
おじさんが、まめっちが、ぼくのぼくの目の前に。
え?あ、ということは今のキスは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
おじさんがニヤリと笑って舌をじゅるりとなめずりました。

うわあぁぁぁぁぁあああああぁぁああああぁぁぁぁああああぁぁああああぁぁぁぁぁぁあああああぁああああああああ!!!!!

村上さんがおじさんのうしろでおなかをかかえて大笑いしてました。
「ねぇ、死ぬと思った?死ぬと思った?ねぇ。ねぇ」
いや、だって。からだがかるくなってきて。
村上さんは「いやぁん」となまめかしいこえをあげました。
「それ、治ってる証拠よォん」
あらほんと。からだがかるくて手足もうごかしほうだいですよ?
でもあれですよ。ほら、めずらしいびょうきて言ってたじゃないですかッッッ!!
「小4で盲腸なんてめずらしいことなのよン」
まじぇっすか!!??ていうかそれって。
村上さんはこれ以上ないくらいにっこりわらって答えました。
「盲腸じゃ死なないわよ」
わぁお。ぼくのさきばしりっすか。なおやっち、だいしっぱぁい!
けどそれならなんで別れのキスなんて・・・
村上さんはうるっとした目でぼくを見ました。
「グッバイまともななおや君。ウエルカム、クレイジーワールドよ。」
わぁいイケナイ世界へレッツゴー♪

オシマイヽ(´ー`)ノ



































・・・・・・・なんて終われるわけないじゃないですか。
よこにいるこのブタ。こいつのせつめいしてくんなきゃ。
村上さんは「ああこれね。」とブタをこづきました。
ブタはウヒィとげひんなひめいをあげてのけぞりました。
「私がつれてきたの。なおや君の学校にいるって言うから。」
ブタは「へへへ。連れてこられちったぁ」とわらってやがります。照れるなバカ。
「あゆがさぁ。だいたんでさぁ。」
村上さんのケンカキックがさくれつしました。
よく見るとブタにはいろんな傷がついてます。
また村上さんに手をだそうとして返り討ちにされやがったなこいつ。
よろよろとブタがたちあがりました。
「でもね。ぼく気づいたんだ。本当に大切なのは誰かってこと」
気づくなボケ。村上さんにフラれてあたまおかしくなったのか。
いやでもよく考えてみたら、こいつはもとからおかしい奴でした。
とどめのセリフをくらいました。もしやとは思ってたけど、じっさいきいてみると想像以上におぞましいひびきを持ってました。
ぼくのせすじはこおりつきました。
「ああ、なおやっち。君はボクの天使だよ」
エクソシスト呼ぶぞコラ。
このブタ、リアルへんたいです。
ごそごそとポケットから銀紙のようなものを取り出しました。
そしてさけびました。
「このゴムは、絶対お前らの好きにはさせない!」
村上さんが「カミングアウトだわッッ!!」とおおよろこびしてました。
てゆーか村上さん。いちばんひどいのはアンタだよ。

クソブタの熱いしせんと村上さんの笑い声が響く中、ぼくはただぼうぜんとするしかありませんでした。
もしかして、そのまましんでたほうがしあわせだったのかもしれない。
くちびるにはあのおぞましいきおくがこびりついてます。
うあ。思い出しただけで悪寒が。
こんなウンコ野郎に記念すべきファーストキッスを奪われたなんて・・・・・!!!!

死にたいです。


12月17日 日ようび えんどおぶでいず

あさ起きると、おしりにみょうないわかんをかんじました。
なにかとても大切なものを失った気がしてなりませんでした。
おじさんがまどべにたってそとをながめてました。
ぼくがおきたのにきづくと、顔をこっちにむけてきました。
「おめざめかい?おひめさま。」
なぜかほおをあからめてました。へんなねぐせまでたってます。
おじさんはかってにはなしつづけました。
「そとをごらん。きぼうのひかりでみちあふれてるよ」
そとは雨でした。
「ボクたちのきぼうだよ。いっしょに新しくうまれかわるための、きぼう。」
待てコラ。なんでぼくまでいっしょなんだよ。てめぇ一人で行きやがれ。
「光の向こう側に行けば生まれ変われる。」
だからしんでないっつの!
ぼくがはんろんしようとすると、サっとおじさんの手が伸びて口をふさいできました。
すごいちから。ぼくはひっしにもがきましたが、その手ははなれませんでした。
フウフウとおじさんが息を荒げるのが聞こえます。
じっとりとしたしせんがぼくにそそがれていました。
やめろ。はなせ。はなせったら!
なんどもなんどもおじさんをたたきましたが、肉がプヨプヨするだけでダメージをあたえられません。
ていこうすればするほど、おじさんのほおがあからんでいきました。
目をカッと見開き、口元にはぶきみな笑みをうかべてます。
ひたいにはジワッとあぶらあせが。
「旅立とう。きぼうの光のその先へ」
こうふんしてこえをあらげてます。
やめて。おねがいだからやめてください。
ぼくはそっちにきょうみなんかありません。ぼくは、まともなにんげんでいたいんです。
そっちの世界につれてかないで!
おおごえでさけんだつもりでしたが、すべておじさんの手におおわれてかきけされました。
あらゆるていこうはむだにおわり、されるがままになるしかありません。
いやだ。ちがう。ぼくはちがう。ぼくはちがうぞぉぉぉ!!!
なおもぼくはさけびつづけました。
「光の果てに見える世界。そこが、」
そんなぼくにおかまいなしに、おじさんはみみもとでささやきました。

「そこがボクらの、新しい世界だ。」

NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!




お  し  ま  い





戻る